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組織の課題を対話で解決する専門家 大坪加奈子

メーカーにおけるDX取り組みの視座

 今週も、DX(デジタルトランスフォーメーション)のテーマでお送りします。3回目の今回は、製造メーカーにおける導入です。製造業といっても幅が広いため、今回は自動車用部品の製造で考えてみます。自動車部品メーカーは、BtoBの取引をしているため、消費者の顔は直接見えません。しかし、製造した部品が組み込まれた車を消費者が購入し、モビリティライフを楽しんでいるということを考えると、顧客の顧客(消費者)を意識する必要があります。

 

 これまで、製造業におけるIT技術は、いかにものづくりの効率を高めるかということに重きが置かれていました。いわゆる工場内で発生する品質・生産性・稼働率の向上です。DXでは、顧客目線で設計を考えるため、工場から出荷され、消費者が購入した後のフォローまで想定されます。これまでも物流分野においては、RFIDを活用したトレーサビリティの向上は議論されてきましたが、あくまで製造工程にフィードバックするということが主眼に置かれていました。

 

 その視点での精度向上も大切なのですが、DXでは購入後のアフタメンテナンスの促進や部品のモジュール化により出来てくる車のパーツの使い勝手などより快適なモビリティライフにつながるサービスや商品開発につなげることも重要な目的となっています。

 

上記のことを整理すると3段階で設計を考える余地が出てきます。

  • ものづくり精度向上のためのICT環境整備
  • 出荷後の安全性を担保するためのICT環境整備
  • 消費者への価値向上のためのICT環境整備

 

 ①については、従来からロボット化や機械の自動化は進んでいます。一度に多額の投資をしてスマート工場にするという構想は、新規工場建設でもない限り難しい話です。工場のどの工程をIoTやAI活用していくのか、優先順位をつける必要があります。生産性向上の設計思想を考える上で、エリヤフ・ゴールドラット氏著書の「The Goal」に書かれている制約条件、スループットの考え方は大いに参考になると考えています。

 

 一般的に、生産性向上を目的として、労働集約型の工程に自動化機械を入れたり、ロボット導入をしたりしますが、その前提として、その工程がボトルネックであるか否か、サイクルタイムを作っている工程であるかという検証が重要です。人が作業をしていても処理量が多い工程であれば、優先順位は低くなるからです。

 

 もし、処理量が多いにも関わらず、労働集約型の工程にロボットを導入する場合は、その人員をより適性のある仕事や付加価値の高い仕事につかせるといった別の目的が設定される必要があります。

 

 また、よく機械が停止する工程にIoT機能のついたオプション部品をつける場合がありますが、その停止時間を含めた処理量が、全体の工程の中でどのレベルにあたるのかも検証してから導入する必要があります。そもそも動いている間の処理量が物凄く多く、停止時間を入れても、他に処理量の少ない工程があったら、その工程の段取りを検証する方が優先されるからです。

 

 上記を考えるにあたって、工程の捉え方もみる必要があります。部材投入から仕上げまでを一つの工程とみなすことが一般的ですが、本来検査や梱包も含めて一つの製品が出来上がります。仕上げまでのスピードと検査・梱包のスピードを分けて考えていたために、結果として、検査・梱包のスピードに合わせなくてはならなくなり、製品一個あたりの出荷までのサイクルタイムが長くなっているということが良く発生しています。その場合、検査・梱包の処理量を増やす自動化やICT化が必要になります。

 

 一方で、品質という着眼点では、モノづくりの難易度が高い工程をIoT化し、品質の安定化を図ることはとても効果的です。部材への熱のかけ方や切り方など実施する際の微妙なズレが品質に大きく影響します。毎回の生産環境についてデータをとり、AI機能を活用してデータ分析を行うことで基準を見直すことは、ものづくり企業の付加価値を高める上では必須です。

 

 ②は、出荷後の不具合検知や分析にIoTやAI技術を役立てるというものです。RFIDなどのトレースツールとIoT技術を絡めて、どのような状況で部品に不具合が発生したのか、発生した時点でインターネットを介して状況を分析することが可能です。例えば、この機能をJAFと連携し情報共有を進めることで、不具合が発生した時点でより構造的な問題を不具合発生現場で解決することが可能になると思います。

 

 ③は例えば、車検の手間を削減することが想定されます。現状は点検に出して初めてチェックできると思いますが、IoT化が進めば、実際に部品を目で見て確認する前に異常値をデータで検証し、遠隔で確認作業ができます。点検に出してから、部品交換依頼をするという現状の時間の流れをもう少しコンパクトにして、すぐに交換が可能になるかもしれません。また、同じ車種での発生データを蓄積し検証することで、発生課題や対処方法を早期に確立することができるかもしれません。

 

 ②や③で書いたことは、ディーラーを中心とした販売側のみが考えることではなく、メーカーの新たな付加価値としてサービス開発をしていく領域でしょう。特に③はモノやコト売りではなくライススタイル変革につながります。メーカー(今回の場合自動車部品メーカー)がDXを活用するということは、自動化やAI、IoT技術を活用し、生活者の利便性の高い安心・安全で楽しい移動時間・空間づくりをいかにサポートするかということに取り組むことなのでしょう。