キラッと光ろう★ 組織の力で価値を最大に!

組織の課題を対話で解決する専門家 大坪加奈子

「キラッと光る組織づくり」の事例

【会社を取り巻く環境変化】

 専門商材を扱う卸会社を営むA社。従業員は約300名。営業所は14店舗あり、物流拠点も2つほど構えている。売上高は約270億。強みは大手仕入先とのパイプ、営業担当者と小売店の営業ネットワーク、物流センター活用した小回りの利く配送である。

 

 業界は吸収合併が進み、仕入先のバイイングパワーが強くなっていた。社長は今の業績では、買収対象になるリスクが大きい。規模をもうひと回り大きくする必要があると感じていた。M&Aも検討はしていたが、まずは、既存事業の立て直しと新規サービスの企画開発でプラス30億を達成したいと考えていた。

 

 そこで、年始の経営方針発表会では300億達成に向けて、各店舗15%の売上高伸長を目標に掲げた。また、既存の卸売ビジネスのみでは達成できないため新規事業開発室も立ち上げ、新たなチャネルや事業形態を実現していくことも合わせて伝えた。

 

【社長の悩み】

 社長はこの方針を実行に移す過程で、いくつかの問題を抱えていた。この方針を実現しようとする中で実務の中核を担う営業所長たちが、あまり前向きに捉えていないことであった。毎月の実績報告では「すみませんなかなか動けなくて・・・。来月は頑張ります!”」と言う所長たちばかり。

 

 今のマネジメントや部門の運営に問題視をしつつも、営業所長に叱咤激励するだけではなかな変わらないと感じていた。会議でうつむき加減の所長をみていて、社長や専務危機感は高まるばかりであった。新規事業を推進しようと立ち上げた専門部署の取り組み計画も、前に進んでいないことにも、社長は頭を抱えていた。

 

 もう一つの悩みの種は、後継者へのバトンの渡し方であった。息子が社内にいるものの、なかなかリーダーシップを発揮する機会を作れず、現場のいち社員として仕事に取り組んでいる状態だった。このような状況の中で、コンサルへの相談があり、このKIRAKONを提案・実施することになった。

 

【KIRAKONの活動】

 コンサルティングは2つのフェーズに分けて進めた。

<フェーズⅠ>

 フェーズⅠでは、「組織の見えない問題」をあぶり出すようにヒアリング、現場視察、データ分析を行った。現状分析から以下の問題が明らかになった。

 

問題のまとめ

■職責・職層ラインの視点

営業所長による職場での方針展開がまともにできていない

 営業所の目標数値を個人に配分して営業活動に取り組ませており、各個人の売上の責任は明確であった。一方で、売上と利益目標以外の情報はほとんど所内には展開されていなかった。

 なぜ営業所全体の目標が15%アップしているのか?自分たちが置かれている環境や今業界がどう変わっているのか、今後の方向性といった社長が管理職にした話は、管理職である営業所長の中でとどまっており、ほとんど口にされていなかった。

 

・部下は数値目標だけ課せられ、営業プロセスについての指導やフォローが少ない

 方針展開がまともにできていない背景として、営業所長がプレイングマネージャーであることも影響していた。営業活動だけではなく、担当する営業事務処理や月次の管理業務も全て所長が行っており、部下指導やフォローに時間が割けていなかった。

 面談の時に一人の営業所長が、「営業も事務処理も手一杯で、部下たちとしっかり向き合う時間が持てていない。ここにきて、売上15%アップと言われても正直ムリ!」と強く主張していた。目標が会社側の押し付けになっていたのである。

 

■ライフサイクルの視点

・仕事が営業担当者についており、業務の標準化や効率化が進んでいない

 同じ作業でも、担当者により処理の仕方が異なっていた。また、文書類の電子化が進んでおらず、帳票等は手書きのものが多かった。

 ヒアリングでは、「マクロを使って実績集計しているんですね。どうやってやっているんだろう。うちは数値を手で拾っています」という声が聞かれ、ヒアリングで所長自身が初めてとなりの営業所の業務処理の方法を知るという状況も見られた。

 

・新規事業開発部門の担当は兼任で、営業に時間が取られ時間捻出ができていない

 担当者は営業との兼務で、営業の傍らに仕事をしていたが、営業の日常業務に追われて、活動が疎かになっていたのである。兼任であった場合、特に生産性向上による余力創出が求められるが、その活動ができていないことにより、新規事業開発の計画が伸び伸びになっていた。

 

■バリューチェーンの視点

・営業部に機能が集中しており、組織としての部門間連携が機能していない

 顧客との伝票処理や物流センターとの情報共有は、営業担当者が案件単位にコントロールしていた。担当者ごとに処理の進め方は異なっており、中には営業担当者の段取りが遅くて、状態的に物流センターへの指示が遅れている状態も見受けられた。依頼事項は組織対組織ではなく、人対人で行われていることが大きな問題であった。

 

・営業会議は数値報告に終始し、新しいことを部門横断で取り組む活動はなかった

 営業会議は毎月開催されていたが、顧客別や商品種別、エリア別の財務結果の分析のみが行われていた。結果に至るプロセスの検証や新規サービスにつながる企画等については時間が確保されていなかった。

 

■タスクサイクルの視点

・売上・利益をもたらす活動指標は目標に入れていなかった

 売上・利益をつくるのは、ニーズにマッチした商品・サービスと営業担当者の行動であるが、何が財務の結果に結びつくのか、重要成功要因が見えなかった。また、部門でその活動を明らかにしようとする分析と検証のプロセスは機能していなかった。

 

・計画の進捗確認や達成度の検証等、振り返りは社員一人ひとりに任せられていた

 上司は部下の訪問・提案計画の確認は行っていたが、その結果できたのか、出来なかったのか、良かった点・改善点等の振り返りまでは一切フォローされていなかった。従い、受注角度を高められそうな案件についても上司フォローが出来きれていなかったり、新規開拓ができそうな先についてリストにあげているだけで後回しになっている状況も見られた。

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 フェーズⅠのヒアリングでは、営業部門だけではなく他部門のリーダーにも話を聞き、客観的な視点で事実を捉えるとともに、社長のビジョンが実現されにくい現状について、職場のリーダーの本音を引き出し、気持ちを受け止めた。ただ、根から後ろ向きでやる気のない人は誰一人いなかった。

 

 後ろ向きなことを言いつつも話の最後には、「そうはいっても所長としてこんなこともやっていきたい。これが必要だと思う。個人的にこんな工夫をしている」という前向きな思いを伝えてくれた所長も複数存在した。その中に息子の姿もあった。

 

  ヒアリングは、事実を正しく掴むこと以外に、会社の抱える課題や目的意識を伝え、会社の意思や方向性に対する社員個々の意識や考え方、そもそも持っている価値観を引き出し、受け止め、相互理解を通して新たな気づきを促す場としても重要である。

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 ヒアリング・現場視察等の過程を経て、シナリオをまとめた。この会社が持つ本来の強みとこの問題の状況を照らし合わせて考えたときに、これから強みを生かしてキラッと光るためには、どういう活動が必要なのかを想像しながら。

 

<フェーズⅡ>

 フェーズⅡでは、フェーズⅠの現状分析を踏まえ、「経営方針・目標達成に向けた組織の課題解決」についてプロジェクト形式で議論を行った。インプット⇒プロセス⇒アウトプットの流れを描き、プロジェクトに取り組むチームメンバーの選定を行う。

 

 今回は、営業部門の改革が中心になることから、営業所長全員と物流・管理部門の代表課長に参画してもらうことにした。また、社長の悩みの一つであった息子の育成についても重要なテーマであり、息子をプロジェクト推進リーダーとして任命することにした。

 

 プロジェクトは、6カ月でおおよそ月2回のミーティングを行った。毎回のミーティングはおよそ半日。初回ははじめに、社長から「経営方針とビジョン、プロジェクト参画メンバーへの期待」について話をして頂いた。社長から直接話をしていただくことで、メンバーがこのプロジェクトに向き合う姿勢が変わる。

 

 このプロジェクトでは、月2回のミーティングを支えるバックボーンとして、以下の仕掛けを実施した。

 ①事後課題と事前課題の実施

  ミーティングは話し合いに重きを置くため、前提となる環境変化の理解や各メンバーの考えをまとめるといった事項は、ミーティングの前後に行うようにした。これはミーティングの思考を最善の状態に持っていくという観点で必要な仕掛けである。いきなり話し合いを始めても、深く話すべき内容の議論にならないことが多い。インプットの過程として現状認識と自分で考えるという過程を経て話し合いを行うことが効果的である。

 

 ②1週間単位の「気づき共有」

 月2回のミーティングは、スポットの取り組みである。例え、6か月間の取り組みがつながりのあるものであったとしても、ミーティングが終わり各現場に戻ってしまうと日常業務があり、前のミーティングのことを忘れてしまいがちになる。このプロジェクトは研修会ではなく、組織変革の活動であることを踏まえ、週に1度気づきの共有を実施した。

 

 次の話し合いのインプットになるようなテーマについて、それぞれのメンバーが気づきを文書にて共有するということを実施することで、この活動を日常業務レベルに落とし込んでいる。もちろんメンバー同士だけではなく、コンサルタントからのフィードバックを実施する。これにより、新たにかんがえるべき着眼点やポイントに対する認識を持つことができる。

 

 この活動は、各メンバーの思考能力を高め、お互いに困っていることに対して解決策を出し合い助け合うという環境づくりを半強制的に実施しており、習慣を変えることにもつながる。

 

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 プロジェクトの前半は現状認識に重きを置いた。「組織の見えない問題」に触れる前に環境変化に対する認識を深める時間をとった。以下の5つの視点から環境変化について話し合い、メンバー同士で発表を行った。

 

■外部環境の変化:議論の切り口

・既存事業のニーズが今後どう変化していくのか

・既存事業のビジネスモデルはどう変化していくのか

・既存事業のパートナーとの関係はどう変化していくのか

・既存事業の競合他社はどう変化していくのか

・既存事業の売り物はどう変化していくのか

 

 外部環境の変化を認識すると、8割のメンバーは今の仕事のやり方を変えないといけないという意識を抱いていた。次に内部環境=組織の現状と課題について話し合った。

 

■内部環境の課題:話し合いの流れ

・「組織の見えない問題」について整理する

・要因を紐解き、重要な課題を議論しながら選定する

・外部環境の変化に合わせて組織内で増やすべき機能や活動を議論する

 

 現状分析で明らかになった問題事象を整理して提示しながら、問題意識を醸成する質問を投げかけ話し合いを進めた。特に要因をメンバー全員で紐解くことで、何をどう変えればよいのか、どのような活動が必要かが見えてきた。

 

 プロジェクトの後半は、今後の目的達成に向けた組織の在り方について、いちから話し合い構想を練った。営業部全体の売上高15%アップを実現するために、組織づくりに必要な観点を提示し、話し合いを進めた。

 

話し合いのポイントは、「組織の見えない問題」の着眼点をもとに提示した。

■話し合いの着眼点

・バリューチェーンの機能と役割・部門定義と業務分掌の再設定

・職場のチームマネジメントのあり方と役職者の役割再定義

・機能を高める標準化・効率化の計画と余力創出目標の設定

・各部門の役割発揮を期待する行動・活動KPIの設定とマネジメントルールの設定

 

 このケースではプロジェクト参画人数が多かったため、話し合いをする上で何名かのグループに分け、その都度発表を行い、アイディアの相互評価を行うことにした。

 

組織・事業構想として以下のような案が上がった。

・営業担当は付加価値となる営業活動に集中する

 他の処理は事務センター機能を持たせ機能分割する

・集約化を行う前提として業務を標準化、一部ITで誰でも作業ができるようにする

・顧客の利便性を高める新たなチャネル取引を3つ企画する

 そのサービス概要をこのプロジェクトでまとめる

・潜在ニーズに合った商品のセット売りを進めて客単価を上げる

 売り方に関する成功事例を共有できるツールを整備する

・部長、課長、係長の三役の役割を明確にして、

 方針や目標の意図・背景が正しく伝わるように方針展開の模範ケースをつくる

・財務目標を達成するための重要行動についてプロセスを管理できる仕組みを作る

・既存の仕事は生産性を1.2倍にあげられるよう目標を立て半期単位の評価に入れる

・各職場で新規活動への投入時間・実施内容を目標管理テーマに入れ実行する 等

 

 これらの案を整理し、必要なプロセス・基準・アイディアの中身を詰めていった。テーマをいくつか分け、分科会形式で内容を詰めていった。新しいことを増やすだけではなく、機能集約・生産性向上の案と新規活動・事業企画が両立していることが彼らのモチベーション向上につながった。

 

【KIRAKONの効果】

 プロジェクト開始以前は、個人商店の集まりのような組織集団であったが、このプロジェクトを通して、組織の縦(役職者間)と横(部門間)の連携・強力が以前とは考えられないぐらい良くなった。

 

 この取り組みの参画した営業所長たちは、営業所のトップという視点から一段上がり、”全社で価値を発揮するには”という視点で機能や業務のあり方を捉えることができるようになった。

 

 結果、何でも自分一人で抱え込まず、他の人の力を借りる、部下を育てることで組織を育てるという視点を優先するようになった。自分流のやり方はありつつ、それを組織の基準に落とし込むことや皆で共有することの大切さも実感されていた。

 

 社長のビジョンに対する成果はすぐには出ないものの、このプロジェクトで新たなサービスの企画が複数組み立てられ、売上アップの可能性のある施策や事業が具現化された。