キラッと光ろう★ 組織の力で価値を最大に!

組織の課題を対話で解決する専門家 大坪加奈子

経営方針展開を上手く進めるために

 3月も下旬を迎え、3月期決算の会社では、今年度の総括をする時期ではないでしょうか。ただ、今年度は1~3月期にコロナウィルスの影響で、想定外の経営状況に陥っている企業も多いと認識しています。このような状況下では、計画の大幅修正が求められます。方針展開をしっかり実施している企業とそうでない企業で、対応の中身やスピードに違いが出てくると考えられます。

 

方針展開に関して平時においても、よく聞かれる問題があります。

 

◇部門目標達成の計画表について、大まかなテーマしか記載されていないため、具体的な行動目標が見えにくい

 ・製造原価率5%減、新分野開拓の強化などの課題は抽出されているのですが、それを達成するための行動が決められていないという状況です。例えば、製造原価率5%減の場合、生産計画の見直しといったテーマが書かれているのですが、それが具体的にいつ、どのように実施するのかが見えるようになっていないのです。

 ・新分野開拓の場合も同じで、攻める企業群が個人任せになっていて、行動計画では件数のみ追いかけているケースが見られます。この状態ですと、旗揚げはできるのですが、チームが協力して取り組んだり、成果につながる行動が共有されず、リーダーや計画管理の担当など一部の人が属人的に取り組むことになりかねません。

 

◇毎年、同じ部門課題が上がっているが、何がどの程度進んでいるのか見えない。

 ・課題が具体的なアクションに落とし込まれていないので、どこができていないのかがわからない状況です。「原価率の低減につなげるための生産計画の見直し」といった時に、何が計画段階において原価率アップにつながるのかを洗い出す必要があります。 

 ・「新分野の開拓」では、宣伝→引き合い→ヒアリング→課題共有といったプロセスでの成功率と成功・失敗要因の可視化と分析が必要になります。それができていないと、どこがボトルネックになっているのか、何を改善すればよいかが見えてこないからです。

 

◇課題と対策がちぐはぐで、成果につながるアクションになっていない

 ・例えば、原価率の低減に関して現場改善というテーマがあがっていたとしましょう。原価低減につなげるためには、人件費まで切り込まないといけません。それにも関わらず、2S活動の徹底とだけ謳っている場合は、なかなか成果にはつながりません。

 ・新分野開拓では、例えば、「受け入れ体制の強化」と書かれているケースがありました。新しい仕事を受けた時に、生産できる余力がなく断らないといけないことが問題だと捉えているようでしたが、これは開拓の話ではなく、現場の生産性の話です。まず、開拓をするためには、狙うエリアへの営業方法やアプローチの妥当性を検証する必要があります。

 

なぜ上記のような問題が起きるのか?

 一つは、経営方針から部門方針、各部門の目標管理の仕組みが形骸化していることが考えられます。社長に対して部門の目標を表明するために、各部門リーダーが課題を列挙し、やりますという宣言をすることに主眼が置かれている場合は、課題の掘り下げや実行におけるプロセスの検討がおろそかになりがちです。

 

 もう一つは、一人で抱え込んでしまう、社長と各部門リーダー同士の報連相の中で終始しており、部門間など横のつながりで課題を洗い出したり、チームメンバーの協力を得て取り組んでいないことが考えれます。リーダーのみの経験や考えられる範囲の課題列挙では、課題の網羅性や対策の妥当性が検証されないまま、場当たり的な取り組みで、目標達成も難しくなります。

 

 そうならないためには、以下のステップにより部門内における方針展開と計画策定をチームメンバーや同職位の次課長メンバーと共有し、一歩一歩確実に実施することが大切です。

 

①狙い・ゴールの確認

事業価値と現状の事業環境、今後の事業展開の方向性を踏まえた上での経営課題の提示(語り)が必要です。これは経営者の仕事です。売上○%アップ・原価○%低減・新分野開拓といった箇条書きのポイントのみでは、経営課題に取り組む必要性が伝わらないからです。

 

②部門課題の共有

社長の話を受けて、事業環境と方向性、現状の経営課題について、部門長自身の言葉でメンバーに伝えることが重要です。これにより、「なぜやらねばならないか」社員の理解が深まり、協力を得やすくなるからです。メンバーへの展開よりも、経営方針を受けて、自分が考えたことをいかに経営者に報告するかという点に重きが置かれている場合がありますが、まずはしっかり自部門内で展開することが大切です。

 

③課題のブレイクダウン

チームメンバーにも関わってもらい、経営課題に関して取り組むべきことを一緒に考えてもらいます。否定や制限をかけず、広くアイディアを集めることが大切です。直接お客様とやりとりしている現場の担当者でないと見えていない課題があります。工場や倉庫などの現場のスタッフとのやりとりをしている担当者が見えている課題もあります。部門長は森は見えても、木や虫の視点で課題が見えづらいため、様々な視点の持ち主から意見を聴くことが重要です。

 

④成果創出のプロセス抽出

業務プロセスをイメージします。③で出てきた様々な意見やアイディアをプロセスに応じて整理していきます。例えば、製造原価低減の場合は、設計過程→試作過程→量産受注→生産計画→材料調達→生産指示→製造→梱包・出荷準備といったプロセスの中で原価高騰要因がいくつか潜んでいます。自社、自部門での問題をプロセスに沿って整理していきます。

 

⑤価値行動の選択

④で整理した問題の中で、ボトルネックになっている工程に着眼し、どの行動を変えたら成果に結びつくかを想像します。これが、KSF(Key Success Factor)、成功の重要要素につながります。製造原価の場合、設計段階での図面の引き方かもしれませんし、受注生産の場合は、生産指示の精度向上(過去の見積もりと製造原価の蓄積と標準化)かもしれません。この段階で、課題に対する対策の適切性を確認します。

 

⑥行動計画の策定

 行動するためのToDoリスト作りに終始させず、スケジューリングが大切になります。リーダーが取り組むための計画ではなく、リーダーが成果を確認するために、メンバーに取り組んでもらうための計画書です。誰がいつ何をするのかを明確にして、メンバー同士がモニタリングできる計画づくりが有効です。

 

⑦計画の検証

行動計画に記載されたアクションとスケジュールが現実的なものか確認します。例えば、「見積り作成の精度向上」がテーマであった場合、顧客別の見積りの仕方の分析、どこに時間がかかるか、標準化やIT化できそうな部分はどこかを整理する必要があります。それをせずに、見積価格のデータベース作成や見積もり件数のカウントとだけ書かれていても、見積もりの精度向上につながりにくいです。書かれている計画内容の妥当性を確認することで重要なアクションの抜け漏れがないか事前に確認します。

 

⑧実行評価・改善

予定していた時期にできない、時間内にできず、計画よりもスケジュールが遅れてしまっている場合は、早めに検証が必要です。遅れていると、予定表のスケジュールの→(やじるし)をそのまま伸ばすケースが見られますが、時間がなかったからできなかったということが問題ではないことが大半です。予定日時までにできなかった場合は、その場でやるもしくは、できない要因となる物事を整理し、できることについて再度計画表に行動内容を書き込むことが必要です。

 

⑨成果プロセスの共有・展開

3ヵ月~6カ月経過した時点で、成果が出たものについて、成果につながった行動を整理し、他の人が再現できるようにステップと実施内容、取り組みのポイントをまとめます。できれば、他部門の前でも発表し、全社的なノウハウとして情報を蓄積していくと良いでしょう。

 

 ①~⑨をしっかり回せていれば、想定外の状況がおきても、既存事業の範囲内であれば軌道修正が比較的楽にできます。今回のコロナウィルスの影響のように、そもそも受注が大幅ダウンといった場合は、事業環境の激震に迅速に対応する、耐え忍ぶという経験を積まないといけないため、簡単な軌道修正ではないと想定しています。

 

 しかし、方針展開の仕組みがしっかり回せていれば、新たな方針が出た時も、現場が迅速に動くことができます。目の前の受注が減少している今だからこそ、仕組みの見直しやノウハウの蓄積に時間を使うことが重要ではないでしょうか。