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組織の課題を対話で解決する専門家 大坪加奈子

鬼滅の刃からの気づき ~目的プログラムvs条件プログラム~

 早いもので、2020年も最終日。目の前の案件に区切りをつけ、お正月の準備、部屋の掃除などもろもろ取り組む12月31日です。普段目の前の仕事に没頭しがちですが、こういう長期の休みでちょっと視点を広く大きく持つチャンス。今年は、この10年間の中で初めて、家で過ごします。いつもは、車で15時間耐久レースなので、新鮮です。

 

 今日は、たまたまNewsPicksで宮台真司氏の「「鬼滅の刃」が現代人に問うこと」というインタビュー動画があって、思わず聞いてしまいました。この方の論客はわかりやすく、共感を覚えるとともに、自分の言動・行動を振り返る機会にもなります。

【宮台真司】「鬼滅の刃」が現代人に問うこと #NewsPicks

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 私も今年は、流行に乗っかるように、鬼滅の刃の映画を見ました。子供が見ていたこともあり、テレビ漫画でも見ていました。映画を見た私の最初の感想は、「教育映画」。見返りや合理を追求せず、仲間のために全てをかけて戦うという内容を理解する自分が一方で、現実はこんな人間は綺麗ではないという感想を持ちました。ただ、映画は鬼に人間が殺されます。勧善懲悪ではないところに、意味深さを感じます。

 

 この意味が何なのか、宮台氏の解説を聞いて納得しました。宮台氏は社会学者としてその時代にどのようなタイプの人材が多くいるかということを前提にしてコンテンツを分析するといっています。彼は今の社会は、システムそのものが機械的な集積パターンとなっており、そこにいる人間はほとんどが損得マシーンで動くようになっていると言っています。

 

 社会に順応していこうと思うとそうせざるをえないのが今の世の中であると言っています。これはある種の絶望であり、鬼滅の刃は、そうではない部分を人間の美徳として描かれている部分に「絶望の中の希望」を見出そうとしているのではないかと言っています。

 

 あの映画を見ると、人間として人間側の視点でみてしまうのですが、でも現実的には鬼側で動いている自分がいることに気づかされました。鬼と煉獄さんの対話では、「死にたくないなら鬼になれ」という鬼に、「俺とお前は価値基準が違う」と言っています。鬼は強いだけではなく、死なないし、傷ついても再生可能性であり、それはきわめて合理的である。宮台氏は、鬼と人間の価値基準の違いが、今の社会システムのメタファになっていると言っています。

 

 価値基準とはいわゆる、損得で動くのか動かないのかということです。宮台氏は損得で動くことを条件プログラム。損得を考えず、ただその目的達成のためだけに動くことを目的プログラムと定義しています。人は見返りを求めず生きるのが美しい。自分の全てをなげうって、仲間のために働けるって素晴らしい。

 

 私が記憶にある学校生活では、自分を犠牲にするまではいかなくても、誰かのために見返りを求めず、ただひたすらに行動できる人(目的プログラムで動くこと)が素晴らしいという教育を受けたと思っています。一方で、経済システムの中で生き残っていこうとすると、常に費用対効果(条件プログラム)を考えなくてはいけません。昨今、効率性や生産性が求められれば求められるほど、見返り(条件)をみて仕事の是非を判断する傾向にあります。

 

 私のこれまでの感覚ですが、損得マシーンの感度を上げればあげるほど、感動(心を揺さぶられること)から遠ざかっていく。得も大きいが損も大きそうなことに対して、試算して動いてしまう。これは、今年に始まったことではなく、以前からこの損得マシーンが洗練されていくことに自分自身あきあきしていることに宮台氏の話を重ねることで気づきました。

 

 一方で、経済を無視しては生きていけないという中で、「煉獄さんのいう価値観は、教科書としては理解できるけれど、実際の社会では、そんな価値基準は通用しない」というどこか冷めた自分がいました。「誰の何のために」ということを考え、ミッション・ビジョンに沿って仕事をしていくことは、一見損得で動いていないように見えますが、その背後にお金という一定の条件やそれに伴う見返りを期待した瞬間に、それは条件プログラムに成り下がると思います。

 

 ありたい姿はわかるけれど、現状の経済社会システムに順応しようと思うとできない。だけど、煉獄さんのように仲間のために全てを投げ打って、見返りを期待せずにただひたすらに生きられたら美しいということは、人間の本能として持っているのではないか。そこに響いた人が何人もいたから、多くの人が感動する映画になったのではと改めて気づきました。

 

 今年の最後の振り返りとしてはとても良い題材でした。経済社会システムとしては既に、フロンティアとしても仕組みとしても成熟されつつあります。その中で希望を見出すためには、自分自身の捉え方や考え方、思考パターンを目的プログラムに自らシフトしていく必要があると認識しました。本当の意味で誰かのために動ける自分、人間的魅力や美しさ、面白さや感動を見出すのは社会や環境ではなく、自分自身なのだということを心に刻み、2020年を終わりたいと思います。