キラッと光ろう★ 組織の力で価値を最大に!

組織の課題を対話で解決する専門家 大坪加奈子

DX設計で提案営業の精度を上げる

 今週は、先週に引き続きDX(デジタルトランスフォーメーション)のテーマです。DXは業務改革や改善などボトムアップから考えがちですが、全体最適を考えるならば、「ミッション・ビジョンからの落とし込みが大切」ということは全体の指針に書かれています。“5年後はこうやって価値を提供する”という事業コンセプトの議論が先にあるということですね。

 

 事業ビジョンを検討する際に、「事業のあり方」と「売り方」を議論する切り口があります。仮に建築業界の事例で考えてみると、“国産木材の良さを世の中に広める”ということがあり方であれば、それを生産者として売るのか、卸や加工で売るのか、建設会社として売るのか、売り方は様々です。DXの考え方をもとに業務やサービスをどう設計するかは、このあり方と売り方が決まって初めて考えられるということです。

 

 では、そのあり方と売り方が決まった後に、どのようにITを活用した業務設計を行っていけばよいのでしょうか。住宅メーカーや工務店など家を建てたい人がターゲットの業態で考えてみましょう。お客様は家を建てたい人で、提供プロセスには、施主様のニーズを聞き→設計図を見せて→実際に作って→納める→定期的に住み心地を確認するという過程があります。

 

まず、間違えてはいけないところは、社内の業務フローで物事を見るのではなく、お客様への価値の側面からフローを見ることです。そうすると、お客様に喜んでもらうためには、どのような行動が大切なのか見えてきます。高度な技術があってもお客様のニーズとずれていては、クレームになりかねません。最初のニーズを的確に聞いて提案するというところは肝になるでしょう。

 

 一方で、家づくりは一生ものですから、お客様との信頼関係も大切です。信頼関係を構築するためには、安心して話してもらえる場づくりも重要です。家づくりはあくまで手段であって、その家でどのような生活がしたいのか、どのような空間や場を求めているのか、その背後にはどのような夢や期待、心配事や不安があるのか、ここが本当に満たしたい欲求に繋がります。

 

 そうすると、まずは、どのような家に住みたいですか?という一般的な質問ではなく、個別面談が必要になります。コロナ禍でオンラインツールが浸透し、本音を話すヒアリングや面談はオンラインの方がやりやすいという評価が出ています。メーカーの営業担当が直接実施すると営業色が出すぎてしまうのであれば、生活相談をする人とのコラボをして面談を設定してもよいでしょう。

 

 この面談を経て、家を建てたいと本気で考える人に、具体的な質問を投げていきます。家への志向や予算など一般的なご要望を聞く場合は、FacetoFaceのコミュニケーションよりも、アプリなどを活用したアンケートの方がよりお客様にとっても企業側にとっても効率的にニーズ収集ができます。

 

 一例ですが、Lineアカウントに登録してもらい、家購入希望の背景やライススタイルの志向など大きな方向性をQ&A形式でご回答頂きます。Lineアンケートでご回答頂いた際に、ライフスタイルの志向性に属するカテゴリの家づくりに関する紹介動画を流して、理想が現実になるイメージを描いて頂きます。

 

 家を建てたいという意思のある人に、事前にITを活用して訴求しておくことで、何となくの理想像をもって次の面談に臨んでもらうことができます。面談では、その場の会話の流れに任せるだけではなく、①事前アンケートの振り返り→②具体的な心配事、不安の聞き取り→③解決策の提示といった面談の流れを作っておきます。これも、社内のロープレマニュアルを動画で作成することにより、経験が浅い人でもある程度同じ品質で聞き取りを進めておくことができます。

 

 この面談での心配事や不安の内容、ライススタイルの志向性などの情報をデータとして蓄積していけば、アプリのQ&Aに活かしたり、動画の内容、さらに家づくりの商品開発に活かしたりすることが可能です。面談が進む中では、ちょっと質問がしたいという場面も出てくるでしょう。データ量が増えればAI学習が進み、バーチャルアシスタントなどの活用可能性も出てきます。

 

 また、業界のAIツール等は解決策につながる重要なツールです。空間デザインや耐震シミュレーションツールをお客様のビジョン実現や不安解消の手段として提示できるよう流れを設計することで、お客様の納得度向上に繋がります。

 

 今回は家づくりの事例で考えてみましたが、他の業種でも同じことが言えます。Webチェックリストや動画、3Dツールなど世の中にはたくさん商品が出回っていますが、標準化・汎用化した方が良いポイント、目玉となる解決策への摘要といったどのステップをIT化していくと良いか、想定した上で決定していくことが大切ですね。これがDXの設計力ではないかと思います。

 

 これは、本社の一部門で閉じている話ではなく、お客様と接している現場の理解と協力が必須です。皆様の会社では、DX導入の議論についてどのような形で進められていますか?