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組織の課題を対話で解決する専門家 大坪加奈子

「共感SNS」から学ぶ現代のブランドづくり

今週はゴールデンウィーク明けの最初の一週間、本格的に始動ですね。コロナ禍も少し落ち着きを見せ始めましたが、まだまだ油断はできないですね。

 

今週は、先輩から一冊の本をお借りしました。

モテクリエーター ゆうこす氏著書の「共感SNS 丸く尖る発信で仕事を創る」

SNS発信を通して、モテたいぶりっ子10~20代女子の共感を集め、インフルエンサー、そして実業家として成功するまでの体験談を語った本です。

 

この本は、2つの側面があります。

一つは、いち個人がSNSを活用してどうやってブランディングから仕事を受託をしていくかという話です。

もう一つは、新商品・サービス開発プロセスの中で、いかにインフルエンサーを活用していくかという事業開発の話です。今日は、主にブランディング話に焦点を絞ってみようと思います。

 

 個人ブランディングの話は、STP→セグメント・ターゲット・ポジショニングをしっかりやった上で発信していきましょうという話を、体験談を通して読みやすく、わかりやすく話されています。個人ではなく、法人のブランディングに置き換えても同じことが言えると感じました。マーケティング理論については、一見すると基本に忠実と言えますが、今までにない新しさがあるなと感じた点が三つあります。

 

 一つ目は、ターゲットの切り方です。彼女は、本書の中で、「私が”モテ”をポップに明るく発信することで、ぶりっ子ちゃんが自信を持ってくれたら嬉しいなと思い発信しています」と何のためにSNS発信しているのかということを書いています。その背景には、学生時代から「モテたい」という思いがあったこと、「ぶりっ子って悪いことじゃないのに、いじめの対象になったり、そういう人に自信を持ってほしかった」ということです。

 

 正直、「私モテたいんだよね」って堂々といいにくい。「ぶりっ子いいじゃん」とはいいにくいと思います。それを堂々と、自分自身も肯定し、それを応援したいという切り口が、”斬新”→イノベーティブだと感じます。そう感じるのは私だけでしょうか。今までにない、人の潜在的欲求を掴むとはこういうことなのだと納得しました。

 

 二つ目は、ポジショニングの置き方の変化です。彼女は、本書で「ダサい界のトップになる」と書いています。ファッションでもコスメでも、見る人がただ眺めるだけの発信ではなく、上手くできなかった人が真似することで変われることを狙いとしているそうです。このポジショニングは従来あまり言われなかった視点です。

 

 あえてそこを狙うというのは、多くの一般人と接点を持てるSNSが浸透したからこそ、できた視点だと言えます。AKBコンセプトの今会いに行けるアイドルに通じるところがあり、彼女がその場で体現し、それを多くの人が再現性を持って体験し同じ状況を味わうことで、共感が生まれ、さらにその輪が広がります。

 

 SNSでの発信の仕方がうまいよね。写真の撮り方とか、動画のサムネイルやイメージ、Twitterのタグづけ、そのセンスの良さはあるのでしょうが、その原点には、ターゲットのペルソナが落とし込めている、ポジショニングで誰をどう変えたいのか、立ち位置が明確であるからこそ、個々の発信に一貫性が出てきて、深みや軸を起点とした広がりができてくるのです。

 

 三つ目は、メッセージの作り方です。彼女は自身を「モテクリエーター」と定義づけています。ターゲティングもポジショニングも新しく、自分自身の定義づけも新しい。こんな仕事あるの?という新たな職業観が伝わってきます。さらに、その定義づけがしっかり伝わるプロセスがSNSでのビジュアル発信です。ゆうこす氏も動画や写真で、自身のターゲット・ポジションを徹底的に深堀した上で、クリエイティビティを思う存分発揮し、イメージしにくい言葉を具現化している様子が伺えます。

 

 ここ数年でYouTubeをはじめとした動画配信が情報発信ツールとして定着しました。単純にわかりやすいということだけではなく、言葉にしにくいモヤモヤを一瞬にして、頭でイメージしてくれる、そんな感じという映像を共有できることが、言葉で定義できない感情やイメージの共感に繋がっているのではないかと思います。

 

ここまでの話をまとめると、

・ターゲットの切り口が斬新

・ポジショニングが次世代を捉えている

・言葉の定義が新しい

ということが言えますが、最初から斬新でこれからの世の中を予測して新しいことを定義できる人はほとんどいません。体験談風の本が良い点は、なぜそれができたのかということが実体験で知れることです。

 

 本当の成功ポイントは、ブランディングの過程でその都度立ち止まり考え、行動していることだと思います。

・自分はどんな願望があるんだろう?それは、どのような想いからくるのだろう?と自分の意志と向き合ったこと

同調圧力を意識せず、こうしたい、こうなったらいいなと思うことを素直に表現したこと、その勇気をもったこと

・新しいツールに挑戦し、誰に見られるのかを意識して、中身を考え発信し続けたこと

・自分が会いたいと思った人には、自ら機会を作り、相手が会ってよかったと思えるように行動を考えたこと

・ファンのwantに合わせて、SNSツールを変えて、接点の作り方、プロモーション手段を変えたこと

本書にはこのようなことが体験談として書かれています。どの話も、徹底やる、深堀してやるという姿勢が伺えます。

 

 これは、個人ブランディングが必要なフリーランスの人のみが考えることではなく、組織で働く社員でも通じるところがあるのではないでしょうか。

 

 これからは、モノやサービスを売る時代からその会社のオリジナリティを売る時代になりつつあります。その会社のオリジナリティを創っているのは誰でしょうか。経営者のセンスだけで、社員に方針を与え、動いてもらう働き方は、主体性を発揮しにくいばかりでなく、変化の激しい環境においては、一人の力ではすぐに限界を迎えます。

 

 この数か月の間に働き方も大きく変わり、組織として機能しながらも、一人ひとりが異なる環境で働く機会が増えます。今後は少数精鋭、多様性がさらに浸透するでしょう。社員一人ひとりのブランディングが会社の戦力となります。社員のブランディングを社員自ら考えてもらうために、ゆうこす氏の本書はとても有効であると感じます。

 

 特に、一人ひとりの営業力が生命線である商社や卸売事業などでは、この本を読んで自分自身の売り方を考えてもらうことも良い機会かもしれません。教育ツールとしても本書はおススメです。